柳小路南角 開業記念インタビュー

「つくった私たち」がこだわったこと

―だし、とっておきました。―

株式会社ケイオス 代表取締役

街づくりや街ブランディングを業務とする株式会社ケイオス 代表取締役。株式会社リクルートを経て、1993 年に独立。生活者の視点を常に大切にした、「くらす」人のための場としての街づくりを実践している。主な実績として「淀屋橋WEST」「グランフロントUMEKITA FLOOR」「新丸ビル」「KITTE」「TOKIA」「なんばCITY リニューアル」など。

建築家・一級建築士/三井嶺建築設計事務所代表

東京大学大学院修士課程(日本建築史専攻)卒業。坂茂建築設計を経て2015 年三井嶺建築設計事務所設立。「U-35 / Under 35 Architects exhibition 2017」最優秀賞受賞。

コンセプトは
「『街場感』 街(ここ)にあったらを実現する」

━ 本日はお集まりいただき、ありがとうございます。では早速ですが、コンセプトから。
「街場感」を叶えるために考えたことは? 予習してきてくださった三井さんからお願いします。

まずは・・・設計者は木造がやりたかったのかな、と、思われるかもしれませんが、実は施主さんより、「通り抜けの道を絶対つくりたい」という要望を最初にいただいたので、それをヒントに「もとの街割り」を意識し、「通り抜けしやすい」を叶えようと考えました。三敷地一体ですし、お店も3つの街割りを活かして1・2階で6店舗に入っていただくという。
正面向かって左手に外階段を掛けているんですが、それも2階への導線を路地裏と捉え、“通り抜け”をイメージしました。

―雨が降れば傘をさして…という外階段ですか?

うーん、ひどいときは降りこんできちゃうのかな。普通だったら庇を付けるんですが、そうしないところに「街場感」が漂うと思ったんです。
「建築が主役ではない」ということを、常に意識していました。あくまでも主役はテナントさんやお客様で、建物は脇役だ、と。
当初から澤田さんに申し上げていたのは、私は「だし汁をとっているだけ」ということ。

「だし汁」という言葉を使う建築家も初めて見ました。笑。

最初、建物のコンセプトはなんですか?と、澤田さんに尋ねられたときに、コレって一つの大きなコンセプトはないな、と。それを説明するのに相応しい建築的表現が見当たらず、強いて言うなら「だし汁」ということです。

味はテナントさんやお客さんが決めていくとして、味入れの前のベースですよね。

私はベースをつくっただけ。 建築家物件によくある、建物が強すぎて“作品”になってしまうのとは発想が違います。
今回はお店さんが入ると、いい意味で建築のインパクトは薄れ、6店舗が組み合わさった“街”のような建物になるはずなんです。それこそが、「街場感」ではないでしょうか。

― なるほどー。では、コンセプトの提案者である澤田さんはいかがですか?

ボク、この二子玉川という街に来たとき、普通の街に普通にあるものがちょっと欠けているのかな、と感じたんです。それが、「街場感」という言葉になりました。
街って、とくに意図なく偶然人が集まってできちゃったとか、昔からあるものが育ってこうなった的なコトやモノが普通はあるんだけど、そんな歴史の息づかいが少し薄いように感じたんです。
今回はショッピングセンターをつくるというお話しでもなかったし、三井さんがとんでもないことをやらかそうとされていて。途中、「木造」って聞いたときには、「なんじゃこれは?」って。

すみません…

いやいや。
だったら、ですよ。商業施設としての世界観ではなく、もう少しヒューマンなところ。「街にあったらいいな」を、実現しようと考えたんです。
例えば、街の餃子屋さんがあって、今日は中で食べようかな、買って帰ろうかなっていうようなことがあってもいい。街の人たちが“自分の店”として行く、そんな意味の餃子屋さんです。
広域にいろんな人を呼ぼうというショッピングセンター風の発想ではなく、街の人が何度も自分の店として足を運ぶ、距離感の近いお店を誘致したい、と考えました。
さらに、街の人でないならば、ショッピングセンター志向ではなく路面志向の人たちに集まっていただこうと思ったんです。

― と言うと?

大型の商業施設と少し間尺が合わない方というのは、「街場感」を好む方。そんな方に来ていただいて、この街の方にも楽しんでいただく、という意味です。
リピートしたくなるような、自分の街の店と呼べる距離の近いお店に入っていただいて、この街にますますの奥行きと幅をもたらすような存在になってほしいと思いました。

― 二子玉川って、確かに「キレイな街」に尽きるのかもしれません。

欠けているのは、スパイスっていうのかな。こんなのあったんだ、コレコレ! みたいな。

― ちょっとディープな!

そう! だから、今まで築いてきたショッピングセンターとしての顔以外に、こんな顔もあるんだよ!的な。そんな奥行きを二子玉川に持たせたいと思い、「街場感」をコンセプトに掲げたんです。
で、そのときに、今回の三井さんの建築がわりとフィットするというか。
“だし”って言ってしまう建築家ですからね!?

― 先ほど、「三井さんがとんでもないことをしようとしていた」と、おっしゃっていましたが?

例えばね、普通、商業をつくるときは、あのー、柱って邪魔なんですよ。いや、もうはっきり言います! ご本人の前で。

はい。笑

(柳小路南角には)木の柱があるんです。しかも、デカいんですよ!

返す言葉がありません…

でもね、それを逆に「面白い」と思ってくださる方って、絶対いるんですよ。10人が10人とは思わない。でも、1人や2人、え~~いっ! 3人ぐらいは。

― わりと少なめ・・・

「3人」はたいぶ頑張って言いましたけどね。笑。
でも、それでいいんです。だって6店舗なんですよ。要はすごく気に入ってくださる方が6店舗分来てくださったらいいんです。7店舗目は気にしなくていいんですよ。

― ひとまず、二子玉川に今のところないモノ、ということですね?

そう。ありそうでなかったモノ。
三井さんの柱は邪魔ですけど。笑。

結果として邪魔してるんですけど、意外とだんだん、皆さん気付かなくなると思いますよ。
これは個人的な建築設計のこだわりなんですが、骨格はきっちりつくろうという想いがあって、柱はただの“骨”なんで。
あと、今回、「街に馴染むように」とか、「もともとあったように」というご要望があったので、オープン時点の柳小路南角という建物は、完成形というよりすでにいろいろ改装された後のもので、あの柱はただの“だしガラ”というか・・・

だしガラ!!! 爆。

見ていただくとわかるんですが、建物のつくりが結構粗いんです。「もともとあったように」という設定でやってるんで、すでに馴染み始めてるかな、と。

3階なんか、三井さんの中で人格が分裂しちゃってるというか。ご自分で建築したのではなく誰かが増築したんだ、みたいなことをおっしゃるワケですよ。

― 責任逃れ?

まぁまぁ。そうですね。笑。
街って一人でつくるものじゃなくて、施主さん、澤田さん、私…という規模感でもなくて、無数の人と偶然が生み出すものだと思うんです。
なので、私は建築家としての、一人の力の限界をひしひしと感じてまして。無理やり別人格をつくり、オフィステナントスペースである3階は、ほんとに別の自分でつくった、という感じ 。

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