柳小路南角 開業記念インタビュー

「つくった私たち」がこだわったこと

―だし、とっておきました。―

株式会社ケイオス 代表取締役

街づくりや街ブランディングを業務とする株式会社ケイオス 代表取締役。株式会社リクルートを経て、1993 年に独立。生活者の視点を常に大切にした、「くらす」人のための場としての街づくりを実践している。主な実績として「淀屋橋WEST」「グランフロントUMEKITA FLOOR」「新丸ビル」「KITTE」「TOKIA」「なんばCITY リニューアル」など。

建築家・一級建築士/三井嶺建築設計事務所代表

東京大学大学院修士課程(日本建築史専攻)卒業。坂茂建築設計を経て2015 年三井嶺建築設計事務所設立。「U-35 / Under 35 Architects exhibition 2017」最優秀賞受賞。

情報ではなく文化を食する、ということ

━ 難産を経てテナントさんが決まり、柳小路南角は産声を上げようとしています。
それを取り巻く、商業施設における飲食店のニーズの変化をどう見ていらっしゃいますか?

かなり大きく変わってますよね。
商業施設って、古くはアパレルが中心で、飲食店は買い物に来られた方へのサービスとして発したのを、お食事やお酒でも楽しめますよ、と打ち出したのが、15年ほど前の東京駅前の再開発ですね。当時は飲食の占める割合が5%ほどだったところへ、約50%というとんでもないビルができたわけです。あのあたりから飲食を目的に来館を促進するタイプの施設が現れた。
それからさらに進んで楽しみ方も多様化し、プレイヤーさえ変わってきた。飲食業界に激震が走ったのが、食べログのような飲食店を探す機能の登場です。1億総グルメ評論家時代の到来ですよ。
ボクらは以前、皆さんが知らない情報を持っているという優位性があったわけですが、以降、情報はどなたでも取り出せるようになった。「美味しいの?」に、「3.5」って返ってくるワケです。

━ 情報が先行してますね。

そして、ネット時代が訪れて久しいこの頃、ボクらは提案したいんです。情報だけで食するのは、そろそろ卒業しませんか?と。食事ってお料理だけではなく、雰囲気も、誰と行くのかも、全てで「美味しい」は決まると思うんで、そういう楽しみ方って“文化”じゃないですか? 文化としてのお料理・サービスを提供できるお店に入っていただこうという取り組みを、今回もしています。
次々にできる新しいお店を巡礼する、スタンプラリーのような流れに飲まれてはいけないなと。だから、リピート、だから、本物感っていうね。

━ 検索すれば素敵なお店は出てくる。けど、一様に素敵で選ぶ決め手が見つけられない。

だからコンセプトなんですが、それを決めるって、何かを捨てること。だから、こういうときはここだよね?と、ちゃんと言ってもらえるようなお店にすることなんだと思います。
いつも来てもらわなくていいんです。上司のグチが言いたいとき、もっと前向きに叫びたいとき…まぁいろいろあるじゃないですか、人間って。だから、どんなときに来るとしっくりくるかがわかるお店にしたい、と思いますね。
商業施設ということで言うと、安心・安全がベースにあるのは当たり前で、重ねて安心・安全ですって言うのはトゥーマッチ。安心・安全があるなかでイタズラしたいんですよね、ボクは。

━ 店主の方をはじめ、人や組織の魅力というのも出てきそうですね。

個人の顔が見えるお店と組織がやってらっしゃるお店の両方が今回もありますが、どちらにも力を入れていただいてて、ここは、ワンオブゼムではなく、自分たちにとって象徴的な、大切なお店として考えてますよ、と言ってくださるお店ばかり。店装も気合を入れてくださっています。

━ じゃー、仕掛けた澤田さんも、そのお店の新しい顔を見られるんですね?

その仕上がりをボクも楽しみにしています。
こっちはこれだけ仕掛けたから、仕返しを覚悟する。向こうはびっくりさせたろうぐらいに掛かってくるから、さらに、びっくりしたるかい!と、身構える。でも、びっくりするんでしょうね。笑。
それぐらい高いレベルでコミュニケートできるっていうのが、いいお店の出発点だとすれば、今回のお店さんたちは、第一関門を間違いなくクリアしています。

━ 個性が光る、ガッツもあるお店さんが集まってくださいました。

こういう企画をしたから、こういう人たちが「いいよね」って共感して集まってくださったって思うんです。
今回はいつもと構造が違うので、自ずと結果が違ってくる。逆に言うと、それが違うから違うものができた。で、違うものがつくりたいなら、構造から変えなければダメなのかなっていう感じです。
最近、皆さんの消費行動が全く違ってきたんで、それに対応する商業施設をつくりましょうとかいうお話しが今、山ほど来るんですが、じゃー、そのお店のあり方、構造を変えないといけないので、それは、商業施設自体の構造も変わることなんですね。
それって、ぼくはチャンスだと思っています。そう考えた方は変わるし、そう考えなかった方は、このイノベートの時代に勝っていけない・・・って、全然関係ない話してる! 笑。

━ いや、つながっています。だから、この施設も“木調”ではなく“本当の木”だということ。

あ、そうそう。柳小路南角は建築的に言うと、構造が木(もく)だってことですね。
だから、木だからできることとできないことがあって、木だからこうなったんですよ、と。普通の構造に木を貼ってたとしたら、こうはならなかった。
こう変えたから、こういう人(=三井さん)が出てきて、こんな難しい店割りになって、それを見て圧倒されて、内装もこうなったわけですよ。
ほんとに内装設計さん泣かせですよ。

━ 三井さん、結局、責められてる・・・笑。

半分、狙い通りなんで。笑。

あんな柱にしたんだから、これくらいのバッシングは当然ですよ。

バッシングされながらもうれしいのが、テナントさんの図面を見てると、結構アレンジしてくれてるんですよ。いや~、居酒屋も入ればビアバーも入るし、焼肉屋も入れば、超高級イタリアンも来ちゃうし。

━ もちろん設計段階では、三井さんはどんなお店が入るかなんてご存じないですものね?

知らない、知らない。
で、皆さんの図面を見て、めっちゃお洒落だなって。自分には絶対できない。
お話しのなかで、「三井さん、どこか1店舗、設計してみますか?」って言っていただいたんですが、そうじゃない方が面白いなと正直思い、ご辞退したんです。
その方が自分も楽しめるし、実際、楽しい。自分がつくった仕掛けに乗っかって、皆さんがアレンジしてくださって。
で、ほかにもすでに出店されている方がここにも出店されて、やっぱりココを重要な“二子玉川店”としてほかとは違うデザインをしてくださってるっていうのもあると思うんですが、実はデザインを変えざるを得なかったんだろうな…と。笑。

まぁまぁ、そう。それもありますよね。向こうがその気になったというパターンと、そうせざるを得なかったというパターンと。
でもね、逆手にとって頑張るぐらいのお店さんたちが入っています。

━ チャレンジャーな人々が。

だから、これだけ個性のある建物に負けないんですよ、テナントさんが。
とんでもないですね。

面白いですよね。

━ 三井さんがつくったとんでもない建物に、澤田さんがとんでもなくチャレンジャーなテナントさんを呼び。きっと、とんでもなく好奇心に満ちたお客様がいらっしゃることでしょうね!

そうそう、あとね、今回、ノイズがいっぱいあります。雑音だらけなんです、この建物。コレがいいんです! 世の中、ノイズがないのをよし!としてきたわけじゃないですか。
それと逆行するように、ここ、ノイズがいっぱいあります。

ノイズあるんですけど、心地いいノイズにしてるつもりです。真っ白で真四角なね、ぴったり正方形でね。扉とか窓とか全部対称に付いてて、そういうのって、たぶんしんどいんですよ。すごいストレスあるんですよね。ノイズはないですけれど。
で、逆の意味の、いいノイズ。余分なものもいっぱい、建築の方も、お店の方も、いっぱい付けてるハズなんです。その辺がどうなるか、私もまだわからないですけれど。

━ 出来上がってオープンしたところで、まだ完成ではないですものね。

お店って、出来上がったときが出発なんですよ。オープンが誕生なんで、ボクらは生まれるまでのいろんなお世話をさせていただいているんです。

━ 11月30日(金)、柳小路南角は誕生します。私も真剣で真面目なものに出会えるのが、とても楽しみです。来館するのは・・・「私が来たいとき」、それでいいんですよね?

そうです! でも、来たくなりますよ。何度でも来たくなりますよ~。笑。

なんなら、通り抜けるだけでもいいんで。笑。わりと通り抜けやすいんで。
2階上がって、ちょっと見て、下りて、錦町に抜けられますから。

━ ほんとに“街”ですね。あと、歴史の流れみたいなものを感じます。澤田さんが最初におっしゃっていた、街の奥行き、なんでしょうか。

三井さんも最初からずーっと歴史を調べてて。

設計するときは “まっさら” なんです。ただ、二子玉川の歴史は、先史時代から全部調べてます。で、頭に詰め込んだあと、全部忘れて。
私、スポーツだと思ってるんです、設計って。バッターボックス立って、ごちゃごちゃバットをこう振って・・・とか考えてる人はいないんで、詰め込んだものは練習で、設計するときはまっさら。
ありがちなのが、昔の街にコレがあったから同じものとか。そういう気持ちは全然ない。ないんですけど、歴史が頭に入ってるのと入ってないでは、出来てくるデザインが違うんです・・・という、ちょっとオカルト的なことを信じて詰め込んでからやると、なんとなく来た人が、新しいのに、なんか馴染んでるな、って、もしかしたら感じてくれるかもしれない――と。

あとは、お客様に育てていただきましょう。

はい。

━ 本日は貴重なお時間をありがとうございました!

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