柳小路南角 開業記念インタビュー

「つくった私たち」がこだわったこと

―だし、とっておきました。―

株式会社ケイオス 代表取締役

街づくりや街ブランディングを業務とする株式会社ケイオス 代表取締役。株式会社リクルートを経て、1993 年に独立。生活者の視点を常に大切にした、「くらす」人のための場としての街づくりを実践している。主な実績として「淀屋橋WEST」「グランフロントUMEKITA FLOOR」「新丸ビル」「KITTE」「TOKIA」「なんばCITY リニューアル」など。

建築家・一級建築士/三井嶺建築設計事務所代表

東京大学大学院修士課程(日本建築史専攻)卒業。坂茂建築設計を経て2015 年三井嶺建築設計事務所設立。「U-35 / Under 35 Architects exhibition 2017」最優秀賞受賞。

本気でやる、ということ

━ すでに、ほぼ出ていますが、ご自分なりに課題として取り組んだことをお聞かせください。

ぼく、さっきだいぶ言いましたね。笑。
ただ、大事なのは、面白おかしく真面目にやること。大人がバカみたいなことを真面目にやるって尊いな、と思ってるんで。
今回、三井さんに建物の説明をしている動画を録ってもらって、テナントさんにそれをお見せしながら歩いたんです。それから、実際の柱の木を持ち歩いてですね、うちのスタッフがドン!と目の前に置いて、「こんなビルになるんですよ」っていうような立体プレゼンをしたんです。それは何かというと、本気感を出そうと思ったワケです。
なんかキャッチーに、奇をてらってわざと外すような表層的なことではなく、本質的に「そういうことをやってるんです」と、いかに伝えるか…には、力を入れたつもりです。

━ 確かに世の中、いい感じ風のものが増えすぎて、結果、どこを見ても同じに見える。

だから、独自性みたいなことが今回、問われると思う。埋没してはいけないし、目立ち過ぎてもいけない。落としどころを探りつつ、それでもやっぱり思い切って振ろうと。「あったらいいな」というものを。
で、真面目につくり上げていく。最初からこじんまりとしてしまうのはやめようと。
とんでもない方(=三井さん)がおられたんで、それだったら目いっぱい遊んでバン!とやろうと思いました。
そしてオープン時には、「冷や冷やしたけど、あぁよかった」と、胸をなで下ろしていただけるような、そんな開発です。

━ “本気である” ことの尊さを11月30日(金)、私たちは知るわけですね。

本気ですよ。かなり本気ですよ。

斜に構えてやっているわけではなく、ストレートなんです。ストレートって…往々にして正論を言うと、叩かれるとかがありますけど、私の気持ちとしてはまっすぐです。
私、建築家って翻訳家だと思ってるんですね。なので、ご要望をストレートに翻訳したら、ああなったって感じなんです。笑・・・

ボクは翻訳家ではなく、増幅器になっちゃった感じ 。笑。

私も増幅しちゃってます・・・。

ただ、増幅はしましたが、もとがなければ増幅もできないわけで。

━ 本気度は伝わってきていたので。核となる骨格に本物の木を使い、本気のものをつくろうとしている、と。

今、「本物」という言葉が出ましたけれど、私もつくるときに、そういうことに思い巡らして、リノベーションが当たり前になったこのご時世に、核はちゃんとつくっておかないと、と思いました。
外装だけで「わ、すごい」と言われ、メディアに取り上げられて、半年ぐらいで消費されてしまうようなものではなくて、20年、30年と、時代や需要に合わせて変化していけるようなもの、そういう仕掛けは実は隠し味のように仕込んであるんです。
5年後とか10年後とかに改装しようとなったときに図面を開くと、「あれ、三井、意外とやりやすいぞ」ということが、あれこれ盛り込んであるんです。
例えば、いろんな素材が使ってあって――

━ そこ!三井さんの過去のお仕事を拝見するにつけ、素材使いの妙を感じるのです。
具体的にチラッと教えてください。

アクセントで煉瓦を使ってるんですけど、そもそもあの煉瓦、新品じゃないんです。
今、「アップサイクル」っていうのが流行ってますが、煉瓦屋さんで超大型物件の余りを処分するなんてことがあるんです。
普通はゴチャゴチャに混ぜて使うとか許されないんですけど、路地の感じをつくるとか、今回のご要望にぴったり合うなと思い、そういう煉瓦を使ったり。

━ どこに使ってあるんですか?

1階の通路とか、2階の手すりですね。
煉瓦職人さんに「あっち側とこっち側で性格を変えてください」とか言うと、わかってくれて。こっち側は僕にうるさく言われて積んだのに、反対側はとにかく早く積んでくれとか言われてササッとやったとか。勝手に時代が練り込んである感じです。

ボクの場合、テナントさんに「木造です」って言うと、「あぁ、木(もく)を貼ってるんですね」という反応がある。なので、「いえいえ木造なんです」と、返す。最初、そんなやり取りを3~4回繰り返すっていうのがお決まりになって。それが面白かったなぁ~。っていうのは単なる感想ですけどね、これって、いかに伝えるかってことなんですね。
独自性って、言うのは簡単なんですが、それを「本当に違うんだ」って思っていただけるようにするのが、我々のファーストアプローチ。
そこで、先ほども申し上げた通り、三井さんに動画で説明していただくとか木材を持って行くとかね、あるいは、言葉で伝えるツールを用意したり、と、ビジュアル、言葉、イメージで…と、いろんなアプローチでお話しを持っていきました。
普通の商品だったら、だいたいのことを言えば、あとは相手に委ねたらいいんですが、これ、ちょっと歯応えあるんで。商品がユニークで難解なだけに、いかに伝えるかってことに苦心しました。

━ そういうプレゼンをされて、出店者さんから逆にアイディア出しなどは?

アイディアというか、普通は一定のことをお伝えすると、「あとは自分たちで考えます」となるのですが、今回はどのお店からも1~2回、「あれ?これってこんなんでしたっけ?」とかの確認が入る。お店だけで完結しないんですよ。逆に言えば、出来上がるまでに会話ができるんです。それって、着地の仕方としてはすごくいい。お店さんが業態やメニューを開発するところに分け入って、クサビが打てるわけですから。
面倒くさくはなりますが、会話を重ねるほど “手づくり感” が出てくるハズなんです。

━ 手づくり感と同時に、コンセプトの筋が通って行く気がします。

施主さんが考えて三井さんが建て、我々がお手伝いをして。そして、店舗さんが入って、お客様が来て、お客様の笑顔で完成だと思うんですよね。
で、お客様が料金を払われて、満足感→リピートという。 たぶん今回はリピート型の施設になると思います。同じ人が何度も来てくださって、やっと完成ということだから、テナントさんもお客様も、いっしょにモノをつくっていく仲間・・・なんか、そんなつくり方の施設なので、それが「街場」に尽きるのかな、と。
街にあるから「街場」なのではなく、コミュニティができて、みんなが知らず知らずのうちに参加して、つながっていくところに「街場」が生まれるんです。

━ なるほど。

それと、ボクは結構、商業施設をつくってるんですが、やっぱリ少し窮屈感があるわけです。テナントさんも窮屈感があるけど、ボクもあるわけですよ。でも今回は、こんな私を比較的自由にさせていただいた。感謝しています。

━ 危険でしたね。笑。

サファリパークのライオンです。自由にウロウロさせてもらいました。でも、サバンナではなくサファリパークだった。檻はやっぱりあったんです。笑。

━ 外界に出て行かれては困りますからね。笑。
さて、こちらも出始めてるんですけど、お客様に見て欲しいところは? 三井さん、煉瓦や柱以外にも隠していそう。

ほかにも実は100個ぐらいあって、見つけきったら賞金差しあげます、ぐらいある。笑。
最終的に一番こだわったのは、街に馴染むというか、その場所に合ったストレスのない建物にすること。例えば、すごく景色のいいところに、全面壁の建物建てても怪しいですしね。その意味で、あれ(柳小路南角)って少しクセはありますけど、かといって、無味無臭でもダメですし。となると、やっぱ“だし”ですよね。だし汁、いろいろとってるので、それこそ何回かリピーターで来られると、最初は柱すごいな、煉瓦面白いなってなるんですけど、そんなことは忘れ、ついフラッと入っちゃう。なんでだろう、面白いねって。そんな仕掛けを設けています。
私が意識していないところを、「これ、なんかすごい」みたいなことが起こるかもしれません。でも、それも受け手の、お客様の自由なんで。

薀蓄はね、7割がほんとで3割がいい加減ぐらいが、みんな気持ちよくしゃべれる。笑

━ 確かに。あと、錦町に通じる通路を設けているとか?

あ! 100個のうちの1個を言っちゃうと、その路地を通って建物が建っているラインを追うと、辻が見えるはずです。ほんとはあそこをみんな仲よく架け渡して、辻を復活させたら面白いなって思ってるんですけど。きれいに辻が通ります。笑。
もとの街割り通りってわけではないんですけど、いろいろ路地裏が抜けられたら、柳小路って名前に相応しいかと。15年後、20年後とかに、施主さんが「ココんとこ通そうかな」とか思ってもらったら、面白いなと思っています。

━ 辻がつながっていく可能性まで見越して仕込んであるとは!

パッと見ると、通るハズなんですよね。2階とか。今まで通ってなかったところが通してあるんで。笑。
あと、柳小路という名前もあって、和風ではないけれど、「ちょっとだけ“和”を匂わせてほしい」というご要望があったので、床を支える木が交差している「梁(はり)」を、お寺の「貫(ぬき)」みたいに、カチッと組み合わせました。超マニアックなんですけど、全く隙間なくピシっと、本当に貫いているんです。現代的な木造だと、隙間をゴムのシールである程度ふさいでるんですが、それだと迫力がないんで本格的に貫きました。

━ 建物とかにお詳しい方なら「わ!」と思われるのでしょうね。

なんかね、ボクはこんなもの(木材など、建築資材の写真)を見せながら、テナントさんに話してたんですよ。通常はパースとかCGとかで説明するんですが、それだけではこの物件のテイストは伝わらない。素材・表情が変わってるんで。今回は表情を見せた方がいいかな、と思って。

━ 私だったら、コレ(ただの木)を見せられたら、「へ?」ってなります。

ですよね? 不安ですよね?? 普通はガラス張りで壁があって、自分たちの世界に入れるんですけど、わりと濃いめのだし汁で満たしてるんで、その風味が消せないんですよね。笑。

ガハハハハ…! だいぶ濃いですからね。消えないですよ。そしたらもう、これ活かすか、ってなる。それって、私たちとしてはヨッシャ! って感じなんです。

━ 柱の写真や実際の木材まで持参して出店を決めていただこうとしたなか、うまくいかなかったことも?

もちろんありました。個性があるって、そういうことですよね。木材の写真とかを見せたときに、自分たちには荷が重いって方はいました。
だけど、その方はむしろ本質的なんですよ。もともと皆さんがこれを受け入れられるとは思ってなかった。三井さんにとっても、これは想定内ですよね? 笑。

ご迷惑をお掛けするのは最初からわかっていたことなんで。すみません…

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